【後編】UXデザインのその先へ – Annie Hoangの挑戦と未来へのビジョン
このインタビューシリーズでは、さまざまな業界で活躍するプロフェッショナルのキャリアストーリーを紹介し、その歩みや経験を深掘りしていきます。彼らのストーリーが、皆さんの次の一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。
第2回のゲストは、楽天でエンプロイヤーブランディングやコミュニティデザインに携わり、教育プラットフォーム「CREABA(クレアバ)」を立ち上げたアニー・ホアンさん。
Part 1では、彼女がビジネスからデザインへと転身し、主体的に行動しながらキャリアの転機を乗り越えてきた過程を探りました。Part 2では、UXデザインの枠を超え、エンプロイヤーブランディング、講演活動、クリエイティブ教育へと進化していった彼女のキャリアを掘り下げていきます。
彼女がどのように企業文化を形作り、学びの場をデザインし、クリエイティブなキャリアを築いてきたのか。そのストーリーを追います。

プロダクトマネジメントからUXデザインへ
アニーの楽天でのキャリアは、プロダクトマネージャーのインターンとして始まった。当時、楽天ではデザイナー向けのインターン採用がなく、対象はプロダクトマネージャーとエンジニアに限られていた。
しかし、目指す道は明確だった。どうしてもデザインのキャリアを築きたかった彼女は、自ら行動を起こす。チームメンバーとの1対1のミーティングを積極的に設定し、デザインマネージャーとも面談を実施。自身のストーリーや目標、ポートフォリオを共有した。
その1週間後、思いがけないオファーが届く。
“来月から、デザインチームでインターンをしてみない?“
こうして、1か月間のプロダクトマネージャーインターンを経て、2か月間のUX/UIデザインインターンへと移行。最終的に楽天から正社員の内定が出て、楽天トラベルのWebサイトやアプリの開発に携わることになった。
楽天で企業文化を築く
現在、アニーはフルタイムのUXデザイナーではなく、楽天の企業文化を形成する重要な役割を担っている。
シニアデザイナーから学ぶ機会を増やすため、週次のUXトレーニングプログラムを立ち上げ、デザイナー同士がプロジェクトを共有し、フィードバックを交換できる場を作った。
また、チームのUXリサーチ不足にも気づく。UI中心のプロセスが主流で、ユーザーテストの重要性が見落とされていた。
そのことに気づいたアニーの取り組みにより、少しずつUXの手法を取り入れ、ユーザー中心のデザイン文化をチーム内に根付かせていった。
特に彼女が誇りに思っているのは、HRと協力して新卒向けの「デザイン思考ワークショップ」を開発したこと。デザインを様々な分野の人々にも利用しやすいものにするための大きな一歩となった。
現在、彼女には明確な役職名はないが、Employer Branding(エンプロイヤーブランディング)の領域で活躍している。名前をつけるとすれば、「エンプロイヤーブランディング・ストラテジスト」または「エンプロイヤーコミュニケーション・スペシャリスト」として活動していることになる。
社員のキャリア成長や成果、楽天の“人“の側面を伝えながら、楽天のエンプロイヤーブランドを強化することが彼女の使命となっている。
UXからエンプロイヤーブランディングへ転身した理由
楽天での経験を通じて、アニーはデザイン思考がデザイナーだけのものではないことに気づいた。ワークショップやUXの取り組みを通じて、異なる分野の人々が学び、協力しながら成長できる環境を作ることの重要性を実感した。
“異なるバックグラウンドを持つ人々が集まり、創造し、学び、実験できる場を作りたかった。“
この視点の変化が、企業文化やエンプロイヤーブランディングの分野へと進むきっかけとなった。より広い視点で会社の文化や価値観を形作ることができる領域へとキャリアをシフトさせた。
デジタルプロダクトのデザインからは離れたものの、今もなお“体験型のデザイナー“であり続けている。ただし、今デザインしているのは、ユーザーのための体験ではなく、社員のための体験だ。
“最初は人々のためにプロダクトをデザインしたかった。でもHRや新卒採用、さまざまなチームと関わる中で、『人と人とのつながり』そのものが、デザインすべき体験であると気づいた。“
アニーにとってのクリエイティブとは?
彼女とって、クリエイティブとは2つの要素が重なる場所に生まれるもの。
- 新しいものを生み出す力:課題を解決したり、新たなチャンスを切り拓いたりするスキル
- 自己表現の力:自分の考えやアイデア、創造物を周りと共有すること
「クリエイティブは、ベン図みたいなもの」とアニーは言います。「片方が問題解決、もう片方が自己表現。その2つが重なるところに、クリエイティブがあると思います。」
彼女は、クリエイティブとは特別な場面だけでなく、日常の中にもあると考えている。例えば、チームでブレインストームを行う時に意外なアイデアが生まれたり、自分のストーリーを語ることで異なる経験がつながったりすることも、立派なクリエイティブの一つだという。
そして彼女は、「クリエイティブとはアーティストやデザイナーだけのものではなく、誰もが持っている可能性」だと強調する。「誰もが伸ばすことができるスキルです。」
この考えこそが、彼女が立ち上げた団体「CREABA(詳細は後ほど紹介)」の根底にある理念。CREABAは、人々が自分の中にある創造性を引き出せるよう、実践的な学びのプログラムを提供している。

楽天を超えて:講演活動と教育
仕事以外でも、クリエイティブ教育に情熱を注いでいる。TEDx早稲田大学( https://youtu.be/a4JbBuykHnw?feature=shared )をはじめとするイベントで講演を行い、デザイン思考やクリエイティブ・コンフィデンス(創造的自信)、人間中心設計について教えている。
目標は、学生や若手プロフェッショナルが創造的なキャリアを築くための“マインドセット“と“スキル“を身につける手助けをすること。そのために、彼らが自身のプロジェクトを立ち上げたり、クリエイティブ業界に挑戦したりできる環境を作りたいと考えている。

CREBAの設立:クリエイティブな成長のためのコミュニティ
2024年、アニーは教育プラットフォーム「CREBA(クレアバ)」(https://www.creaba.org )を設立。クリエイティブな才能を育むことを目的とした学習の場を提供している。
CREBAが提供するもの:
- 毎月のワークショップ(例:3Dデザイン、自己紹介、デザイン思考)
- 実践的なスキルを学ぶ長期プログラムと実例を基にしたケーススタディ
- 日本全国どこからでもアクセス可能(東京だけでなく、地方在住の学生も参加可能)

アニーの描くCREBAの未来
日本のクリエイティブ教育のあり方を変え、学生たちが創造的自信を身につけることが目標。
“日本の学生は本来、好奇心旺盛でクリエイティブ。でも、学校の仕組みが自己表現を抑えてしまうことが多い。“
CREBAは、そんな学生たちが自分のユニークさを再発見できる場所でありたいと考えている。
“自分のバックグラウンドに縛られるのではなく、なりたい自分を自由に選べるようになってほしい。“
現在はボランティアで運営されているが、将来的には独立した組織やクリエイティブスタジオとして成長させていくことを目指している。

アニー・ホアンさんのキャリアは、単なる職種の変遷ではなく、「デザイン」という視点を軸に、常に新しい領域へと挑戦し続ける旅そのものです。UXデザイナーとしての経験を活かしながら、企業文化を形作り、エンプロイヤーブランディングを推進し、さらにはクリエイティブ教育の場を創造する――彼女の歩みは、デザインの可能性を広げ続けています。
「人とのつながりもデザインができる」と語るアニー。その言葉には、個人のキャリアだけでなく、コミュニティや企業、そして社会全体に対する彼女の深い洞察が込められています。
これからの時代、デザインは単に美しいものを作る技術ではなく、文化や価値観を形にし、人々の可能性を広げる力となっていくでしょう。アニーの挑戦が、その道を切り拓く一例となり、多くの人にとってインスピレーションとなることを願っています。
是非、彼女のウェブサイトもチェックしてみてください。 http://www.annie-hoang.com
次回のインタビューもお楽しみに!
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