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【後編】金融からエンタメへ──バイリンガルとして積み重ねてきた10年

 

前編では、ゴールドマン・サックス東京オフィスからニューヨーク本社への異動を経て、世界の金融最前線で活躍した井上ダニエルさんのキャリア前半紹介させていただきました。

そして後編では華やかな金融の舞台から一転、未経験のクリエイティブ業界への挑戦、Apple Japanでの経験、さらには“日本発IP”を世界へ届けるという現在のミッションに至るまで、その転機と想いに迫ります。
日米を舞台に、自分らしいキャリアを築き上げている井上さんの歩みを、どうぞ後編でご覧ください。

 

「金融」から「クリエイティブ」の道へ

 

外資系金融機関でのキャリアから、突如クリエイティブ業界へ。「金融の仕事では、論理的思考やデータを扱うスキルが磨かれ、とても貴重な経験ができました。」と語る一方でニューヨークという厳しい環境で日々を過ごす中で、改めて自身のアイデンティティと将来を真剣に考える時間が増えた井上さん。その中で、自分の心が高鳴る瞬間を思い返して気づいたのはクリエイティブ業界への想いでした。

 

「大学で専門的にデザインを学んでいたわけではありませんでしたが、元々クリエイティブ業界に興味はありました。これまでの金融での5年間の経験を活かして、クリエイティブ分野にどう関わるかを模索した結果、ブランドマネージャーやアカウントマネージャーというポジションに可能性を感じました。」

そうして出会ったのが、TBWA\HAKUHODOのApple Japan専属チーム。バイリンガルである井上さんの背景が求められていた環境でした。

「自分が関わった広告を街中で初めて見かけたときは、本当に嬉しかったです。“自分の仕事が目に見える形で世の中に届く”という実感が、とても新鮮でした。」

TBWA\HAKUHODOでは、アカウントマネージャーとして様々なマーケティング施策を担当。広告代理店の立場として、クライアントと密に関わる日々の中で、「仕事が形になっていく」過程を楽しむ瞬間を重ねていきました。

 

広告代理店からブランドサイドへ──立場が変われば、視点も変わる

TBWA\HAKUHODOを退職後、次の就職先を決めずにキャリアと向き合う時間を取りました。そんな中で出会ったのが、Apple JapanWPCチーム。前職の経験を活かせる、まさに理想的なポジションでした。とくにApple Payのオペレーションとマーケティングのサポートを担当していたこともあり、金融と広告代理店のバックグラウンド強みとして活かせる環境だったといいます。

「Appleのカルチャーや特徴的なマーケティングは、広告代理店時代に自然と染みついていたので、入社後もスムーズに馴染むことができました。」

ブランドサイドに立ったことで、今度は広告代理店から提案を受ける側に。求めるクオリティや依頼の仕方への配慮が求められる一方で、両方の立場を経験したからこそ、「どう伝えればより良いアウトプットにつながるか」という視点で、コミュニケーションの工夫ができるようになったといいます。

 

アメリカ育ちの自分だからこそ──日本発エンタメの“世界展開”に挑む理由

30代に入り、井上さんは再び大きな決断を下します。
「次の挑戦をするなら、早いほうがいい。」そう考え、Apple Japanを退職。前回と同じく、次の仕事を決めないまま、渡米を選びました。

「いずれアメリカに戻りたいという気持ちは、ずっと心のどこかにありました。その中で、自分が日本で育んできた感性や価値観をどう活かすかを考えたとき、日本のIPを海外に届けるという仕事が、自分にとって最も今後の可能性を広げるチャンスがあると感じました。」

ちょうどそのタイミングで出会ったのが、日本発のエンタメブランドの海外展開を担うポジション。
現在はアソシエイトブランドマネージャーとして、アメリカ市場に向けた戦略立案と展開に携わっています。

 

 

“日本発のエンタメを世界に広げる”──ブランドと共に歩む井上さんの現在地

「戦略立案から実行まで幅広く担いながら、特にゲーム領域でのブランド成長に注力しています。」

エンタメ業界は、これまでとはまた異なるフィールド。業界特有の文脈やトレンドを掴むために、日々インプットと現場での学びを重ねているそうです。

そんな中で活きているのが、これまで関わってきた業界で培った様々な経験でした。

グローバルなチームとのコミュニケーション、市場データの分析、静止画や動画の制作進行、マーケティングキャンペーンの設計など、様々な業界のたくさんの知見が、今の業務に直結していると感じます。プロジェクトを動かすうえでの“土台”は、これまでの経験で築かれたものです。」

現在は、その土台にブランドの世界観や企業カルチャー、そして自分なりの視点を掛け合わせながら、自分らしいスタイルを少しずつ形にしているところだそうです。

今、井上さんが取り組んでいるのは、“日本発のエンタメを世界に広げる”という挑戦。その挑戦の延長線上に、井上さんが今描いている未来があります。

「将来的には、“日本発のあのキャラクター”が世界中で認識されるようになってほしい。それが、ブランドが本当にグローバルに成長した証なのではないかと思っています。」

この目標は、井上さん個人の想いであると同時に、チーム全体のビジョンでもあるといいます。
日米をまたぐブランドマネジメントの最前線で、その実現に向けた挑戦はこれからも続いていきます。

 

異文化間の架け橋として──“違い”を理解し、尊重するということ

キャリアを通じて日米を行き来し、グローバルな環境で仕事をしてきた井上さん。アメリカと日本、それぞれのビジネス文化に深く関わってきた立場から、文化の違いに直面する場面でどんな工夫をしてきたのかを伺いました。

「たとえばアメリカ人の“率直な物言い”が、日本側には強く響きすぎることがあります。悪気はなくても、伝え方ひとつで印象が大きく変わってしまう。それがもったいないなと感じることは多いですね。」

日本オフィスで信頼関係を築くには、まず“聞く姿勢”と“礼儀”を大切にすることが基本だといいます。さらに、日本語に対して努力する姿勢や、相手への敬意を持ったコミュニケーションが距離を縮める鍵になるとも語ります。

異文化理解において、井上さんがもうひとつ大切にしているのが、「いかにフラットに人と向き合うか」という姿勢。
ゴールドマン・サックスやApple Japanといった異なる文化を持つ職場で働いてきた経験から、それぞれの価値観を尊重することの重要性を実感してきました。

「日本人が多い環境では、互いを思いやる姿勢や丁寧なコミュニケーション、チーム全体で進める一体感が重視されていると実感しました。一方で、多国籍なチームでは、肩書きや背景にとらわれず、“一人のエキスパートとして向き合う姿勢”が何よりも大切になります。」

肌の色も話す言語も異なる人々と肩を並べて働く中で、「正解はひとつではない」という感覚が自然と身についていったそうです。
多様な価値観やライフステージを持つ仲間たちと働く中で、お互いを思いやり、補い合う関係性が自然に生まれていく。
それこそが井上さんにとって、“自分らしくいられる働き方”であり、チームの強さの源でもあります。

 

キャリアチェンジの判断軸──大切にしている2つのこと

井上さんのキャリアには、一貫した信念があります。それは、次の一歩を踏み出す前に「自分が本当に今の毎日に納得できているか」を問い続けること。

「何かを物足りなく感じた時、その裏にある本音を掘り下げて考えるようにしています。たとえば“入社したときに目指していた姿になれていない”という気持ちがあるなら、それは自分の中に残っている“やり残し”なんだと思うんです。」

こうした姿勢は、キャリアチェンジの節目ごとに常に意識してきたといいます。

 


もうひとつの軸は、「どれだけ心が動く瞬間があるか」。

「“居心地がいいかどうか”には、あまり重きを置いていないかもしれません。むしろ、毎日の中にワクワクする、又は大変(チャレンジング)な瞬間があるかどうか。それが、自分にとって大切な判断基準です。」

だからこそ、たとえ疲れていても「楽しいからやっている」「自分の限界に挑戦している」と思えるような仕事を選びたい。
そして、それに時間を費やすことに対して納得感があるかどうかを、常に自問自答しているといいます。

「働くとは“時間をどう使うか”ということ。その投資先として、後悔しない選択をしていたいという気持ちが強いんです。」

井上さんにとって「キャリア」こそが自分の成長の大軸であり、“個性”を表すひとつの方法だと語ります。

「社会がどんどん効率化されて、仕事の一部はAIに置き換わっていく中で、自分にしか出せない価値って何だろう?と考えたとき、この“2つの軸”で自分が常に成長していくことがなにより大切だと感じています。」

 

井上さんのキャリアは、「自分の軸」を持って選び取ってきた道のりです。
バイリンガルという強み、異文化を行き来してきた経験、それらが交差する場所に、今の仕事があります。

「次のチャレンジが必ずしも“正解”かはわからない。でも、自分が納得して選び、意味を見出している限り、必ず自分の糧になる。」

そう語る井上さんの言葉は、不確実な時代を生きる私たちに、確かな勇気とヒントを与えてくれます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
読者のみなさんが、井上さんのストーリーを通して「自分の軸」を見つめ直すきっかけを得られていたら嬉しいです。
今後も、さまざまな人生とキャリアの選択に触れながら、新たな視点をお届けしていきます。

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