【後編】AI時代のクリエイティブの未来と若手へのエール──髙野公寛さんが描くキャリア展望
前編では髙野さんのこれまでのクリエイティブな歩みを振り返り、その中で培われた経験やスキル、挑戦の数々をお届けしましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
後編では、AIや新しい技術をどのように取り入れているのか、またそれが今後の業界やご自身のキャリアにどのような影響を与えるのかをさらに深掘りしていきます。
さらに、これからクリエイティブ業界を目指す方々、そしてすでに業界で活躍している皆さまに向けたアドバイスやエールもいただきました。
髙野さんならではの視点が詰まった内容となっていますので、ぜひ後編も最後までお楽しみください!

クリエイティブにおけるAIとの向き合い方
髙野さんがAIと初めて出会ったのは2016年、PARTYのプロジェクトにAIエンジニアが加わったときです。
その年、SXSWで行われたSpotify HOUSEの展示コンテンツとして、初めてAIを使ったクリエイティブに挑戦しました。このプロジェクトでは、独自の画像認識システムを搭載したジュークボックスを制作し、来場者が着ているビートルズやKISSなどのバンドTシャツを画像認識して、そのバンドの楽曲を自動的にSpotifyのシステムと連動させ自動再生する仕組みを構築しました。
例えば、ビートルズのTシャツであれば、Spotifyと連携し、ジュークボックスから『Let it Be』などのビートルズの曲が流れるというものでした。
「当時はまだ機械学習も未発達で、サンプルとして、実際のバンドTシャツを100枚以上購入してみたり、2000枚以上のTシャツ画像を集めたり、画像検索と連携したりと、試行錯誤しながらプロジェクトに取り組みました」と振り返ります。このプロジェクトは来場者の評判が良く、大成功を収めました。
髙野さんにとって、これが初めてのAIプロジェクトであり、AIの可能性を実感した瞬間でした。
「この経験を通じて、フィジカルな体験と裏側で機能するシステムを融合させることは、クリエイティブなアプローチとして非常に画期的だと感じました」と語ります。


AIとの共存と未来
髙野さんは「AIを使ったコンテンツにはまだ課題がありますが、使い方次第で素晴らしいインスピレーションを与えてくれるツールになると思います」と語ります。
AIはここ数年で劇的な進化を遂げ、日常生活からビジネス、研究開発に至るまで、私たちの社会のあらゆる場面に浸透してきています。特に生成系AI(Generative AI)の登場により、これまで人間だけが担ってきた創造的な領域においてもAIが重要な役割を果たすようになってきたように思います。これにより、私たちは新しい「共創の形」を模索する必要があると感じています。未来は「AIによって奪われる」ものではなく、人間の価値が「創造性」や「共感力」と結びつき、AIが有能なパートナーとして「拡張する力」を提供する。そんな関係が理想的なのではないかと考えています。
また、髙野さんはAIを使う際のプロンプト(AIへの指示)の工夫がクリエイティビティの鍵になるとも言います。「どう質問をするかによって、AIの答えは大きく変わります。このプロセスは、クリエイティブディレクションにも似ていますよね。
AIに的確な指示を出せば、非常に有用な提案が得られます。逆に、漠然とした質問では良い答えは出てきません」と強調します。
髙野さんは、AIを理解し、上手に活用する一方で、結論的には人間の本質的な部分を守ることが未来のクリエイティブ業界において重要だと考えています。
テクノロジーの進化を恐れず、バランスよく取り入れることで、より深い共感や温かさを持ったコミュニケーションが生まれると信じています。
「人間の営みを大切にしつつ、AIを上手く活用して、より豊かなクリエイティブを生み出していきたい」と語ります。
AIと人間が協力し合うことで、これからのクリエイティブの新しい共創の形が見えてくるのではないでしょうか。
キャリアについて
キャリアの転機と新たな目標
髙野さんにとってキャリアの大きな転機の一つは、電通への出向からパーティーに戻り、執行役員に昇進した時期でした。試用期間からスタートした入社当時には想像もつかない昇進に驚きながらも、「自分の頑張りが評価され、一緒に働くメンバーに還元できることが増えたことも嬉しかった」と振り返ります。そこから、プロデュースチームや会社のために何ができるかを考え、「マネジメントという新たなステージに挑戦しよう」と決意しました。
その背景には、東京2020オリンピックの開閉会式プロジェクトを通じて「一人でできることには限界がある」という思いがありました。「小さな山は一人で登れるかもしれませんが、全貌がわからないほどの巨大な山を登るにはチームワークが必要です。みんなで同じ志を持ち、チームとして成長できる環境づくりが私の次の興味を引きました。」と語り、チームプレーの重要性を再認識したといいます。

キャリアの次なるステップ
髙野さんが目指している次のステップは、グローバルな舞台での経験です。特にWieden+Kennedyでの新しい挑戦は大きな転機となっています。
「W+Kのチームに参加してから、毎日が新しい発見の連続です。価値観やバックグラウンドが異なる多様な人々と協力しながら、新しいアイデアを生み出しています。英語でのコミュニケーションや異なる文化を肌で感じながら働くことが、僕をさらに成長させています」と語り、今後のキャリアにはグローバルな視点が不可欠だと強調しています。
またWieden+Kennedyに転職したもう一つの背景には、ダン・ワイデンが創り上げた「Just Do It」に象徴される、長年同じブランドを支え続けるクリエイティブカンパニーとしての魅力がありました。
「ブランディングは長距離走であり、5年10年経っても人々が覚えているブランドアクションが大切だと感じています。そして、少しでも誰かに勇気を与えたり、誰かの支えになったり、ポジティブなエモーションを作り出せるのが良いブランディングだと考えています。」と述べ、長期的な視野を持ちながらも新しい挑戦を続けたいという意欲を見せます。


チーム作りと未来のビジョン
髙野さんが最終的にやりたいことは、人々をつなぎ、クリエイティブの力で新しい価値を生み出し、チームや個人が成長できる環境を創ることだと思います。その中で、自分自身も成長し、次世代を支える存在として未来に貢献したいというビジョンが根底にあると感じます。
「チームで何かを作り上げる過程がとても楽しく、その中で自分が成長し、他の人たちを助ける環境を作りたい」という思いが彼のキャリアの中心にあります。
来年からはMBAに挑戦し、更なる成長を目指します。「経営者がどう経営をしていくかを理解していないと、若い人たちにとって不安定な環境になってしまう。だからこそ、自分が成長し、チームを育てることが大切だと思っています」と強調し、誰もが楽しみながら成長できる環境を作り上げることを目指しています。
「自分が成長し、チームも成長したとき、クライアントや困っている人たちを助けることができ、そのサイクルが公平なコミュニティを生み出し、クリエイティブな環境を創出する」と語り、彼のビジョンは豊かな未来を描いています。
また、今年には個人活動として行っている取組みとして、沖縄にラム酒のバーを出店するチームの支援をする機会があり、枠に収まらない多様なアクションが人生を豊かにしてくれるのではないか、そこから生まれた出会いがまた新しいステージに連れて行ってくれるのではないかと考えているとのことです。異なる領域でも、髙野さんの未来への一歩が着実に始まっているようです。

※ブランディングの手伝いをしているJAPANESE CRAFT SPICED RUM “IE LAB”
若手クリエイターへのメッセージ
柔軟性の維持
髙野さんにとって「プロフェッショナリズム」とは、何よりも「柔軟性を持つこと」だと語ります。柔軟な思考がクリエイティブな発想を促進し、アイデアを生み出す力になると考えています。時には思考が固まってしまうこともあると認めつつも、「なるべく柔軟でいようと心がけている」と話し、柔軟性こそが人間らしさの本質であると感じています。
新しいアイデアを生み出し、それを実現する過程で、「新しい経験」や「新しい出会い」が生まれ、最終的には「今まで見たことがない景色」が広がっていくと語ります。「答えを出し過ぎないことが大切」と語る髙野さんの言葉からは、常に未知の可能性を追い求める姿勢が感じられます。新しい挑戦を受け入れ、柔軟に思考を進めることで、予想以上の成果を得られると確信しているのです。
コミュニケーションの量と熱量の重要性
また、髙野さんが大切にしているのは「コミュニケーションの量と熱量」です。彼は「多くのプロフェッショナルがいる中で、それぞれの分野で持つ深い知識や技術に敬意を払っています。その上で、どれだけそのプロジェクトに対して集中し、熱量を注げるかが重要だと思っています」と話します。
髙野さんは、どんなに優れたアイデアや技術があっても、しっかりとコミュニケーションを取らなければ、良いディスカッションやプロジェクトの成功には繋がらないと考えています。「熱量を持って取り組んだ分だけ、ステークホルダー全員と公平に話すことができ、より良い結果が生まれる」とその重要性を強調します。コミュニケーションの質と量を最大限に活用し、良いディスカッションを生むことで、プロジェクトの成功に繋がると確信しています。
Fail Harder──挑戦と成長を続けるために
髙野さんが大切にしている言葉の一つに、Wieden+Kennedyの名言「Fail Harder」があります。この言葉には、失敗を恐れずに挑戦し続けることで成長するというメッセージが込められています。「失敗は成功の途中だと考え、どれだけチャレンジしたかが重要だと思っています」と語り、挑戦し続けることこそが進化を促す原動力だと感じています。この言葉が、彼を前進させる力強い言葉となっていると話します。

今回は髙野公寛さんにインタビューできたことを大変光栄に思います。彼の柔軟な思考、挑戦し続ける姿勢、そして失敗を恐れず進化を求める強い意志に触れることができ、非常に貴重な体験でした。髙野さんが語るプロフェッショナリズムの本質、すなわち固定観念に囚われず柔軟でいること。新しいアイデアや経験を受け入れ、次のステップに進む力強いメッセージは、多くの人々に響いたことと思います。
彼のようなクリエイティブリーダーから学べることは非常に多く、きっと皆さんの人生にも役立つ部分があるのではないでしょうか。今回のインタビューが、皆さんのキャリアや日常に新しい視点をもたらすきっかけとなれば幸いです。
今後もこのシリーズを続けていく予定ですので、次回も魅力的な方々のインタビューをお届けします。どうぞご期待ください。引き続き応援よろしくお願いします!
Cogsは、クリエイティブマインドセットを身につけた人材と、グローバルなキャリア成長の機会をつなげるエグゼクティブ・サーチと人材紹介を専門とするエージェンシーです。
#クリエイティブに生きよう #LiveCreative